恋する銀行員

元メガバンクの社畜が紡ぐ物語

【恋する銀行員】第2話『ヒグマ死す/その1』

第2話

ヒグマ死す/その1


 

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第1話はこちらから

 

higumaaa.hatenablog.com

 

 

4月1日。

銀行の入社式だ。

 

入社式。

社会人になる人は誰もが経験する最初の儀式。

僕には他の入社式が分からないが、きっと一般企業の入社式は

入社式からの研修だったり

入社式からの配属先への挨拶だったり

入社式から飲みウェーイだったり

そこでの男女の出会いがウェーイだったり

そんな感じなのだろう。

 

しかし、我らは天下のメガバンク。

そんなナヨナヨウェーイ☝(՞ਊ՞☝ 三 ☝՞ਊ՞)☝軍団とは一線を画していた。

 

そもそも我らは入社式の前日。

3月31日に銀行研修所に召集がかかったのだ。

 

新入社員は約400人。

銀行研修所は東京の少し郊外の駅からバスで20分。

最寄り駅まで徒歩30分超の陸の孤島。

いや、陸の要塞だ。

 

そこの大ホールに、入社式の前日である3月31日。

新入社員が集められた。

 

「一体何が始まるのか。」

 

ザワ…ザワ… 

新入社員ほぼ全てが、期待と不安の入り混じった表情でただ待ち続けた。

まさに希望の船「エスポワール」。

誰もがこの状況を把握する事に必死だった。

ザワ…ザワ…

 

ただ僕は違っていた。

ただ僕は思っていた。

 

「今日3月31日じゃん。給料出ねえのかよ。」

 

というクズな思考を。

 

そして僕は知っていた。

何が始まるのか。

 

僕はあらかじめ聞いていたのだ。

3月31日。

これから始まるのが「身だしなみチェック」である事を。

 

 

そう。

仕事の出来る男は一味違うのだ。

銀行員らしい、無地のスーツ。

落ち着いたネクタイ。

決して目立たない腕時計。

『The 銀行員 style』

 

仕事の出来る男は、圧倒的情報戦を制するのだ。

 

 

すると急に、

 

「お前らあああ!一列に並べえええ!今から身だしなみをチェックするうううう!!!」

 

前方で仁王立ちしていた、見知らぬおじさん達から怒号にも似た叫びが聞こえた。

 

そう彼らは、新人研修の講師だ。

一目見た瞬間に僕は理解出来た。

本能が叫びたがっていた。

 

「あいつらはヤバイ」と。

 

全身から圧倒的な波動を放っていたのだ。

もしこれが一般企業の新入社員であれば、

 

その場で死に絶えるであろう。

 

しかし、我らは違う。

 

M銀行の銀行員なのだ。

 

全く臆する事なく、

全く臆する事なく、静かに黙って、

全く臆する事なく、静かに黙って、素直に、

全く臆する事なく、静かに黙って、素直に、綺麗な一列を組んだ

 

素直さが大事。

 

 

そして身だしなみチェックが始まった。

 

ぶっちゃけ、頭の中では

 

「HAHAHA!見出しなみチェック?笑わせないでくれよ!!www」

「どうやらメガバンクに入社したと思ったら、メガバンク幼稚園に入園しちまったようだわーwww」

 

みたいな妄想をしていた。

 

すると…

 

講師

「長いいいい!長すぎるぞおおおお!!!」

 

前方の新入社員が、殺気にも似た言葉を浴びせられていた。

 

 

「何がだ?何が長いんだ???」

 

僕の頭は、主語の無い言の葉に惑わされていた。

 

講師

「ここに行けえええ!」

 

殺気を浴びせられた新入社員が何かを渡されていた。

 

名も無き新入社員「うひいいいい。今ですかあ?」

 

講師

「今だあああああ!!!」

 

名も無き新入社員

「びゃあ゛ぁ゛゛ぁうまひぃ゛ぃぃ゛ぃ゛」バタバタ

 

と、どこかへ旅立ってしまった。

 

 

まさに想定外。

 

「どこに行くんだ?」

 

僕を含めて、周囲の新入社員がパニックになっていると、先方の兵隊より伝令が来た。

 

名も無き兵隊

「カミだ…。かみ。」

 

カミ?

 

紙?

 

神?

 

名も無き兵隊「髪だ。髪の長い奴らが床屋の地図を渡されている…。」

 

「今?」

 

名も無き兵隊

「今」

 

 

 

おお神よ…

 

状況に対して、頭の理解が追いついていない。

ふと周りを見渡すと

 

次から次に「床屋の地図」を渡されている同期がいた。

それはまさに現代の【召集令状】。

もはや【赤紙】。

 

渡された名も無き兵隊達は、何かを諦めたような表情で、次から次へと床屋に向かっていく。

 

渡された者の中には、

きっと朝から一生懸命時間掛け、

ナイスなセッティングをしたであろう、

爽やかながらも、

少し毛先で遊んでいるオシャレな野郎どもが沢山いた。

 

 

僕の頭の中には、何故か懐かしいメロディー

 

『ドナドナ』が流れていた。

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ある晴れた昼下がり

床屋へ続く道

 

荷馬車がゴトゴト

兵隊を乗せていく

 

かわいい兵隊 刈られていくよ

悲しそうな瞳で 見ているよ

 

ドナドナドナドナ

兵隊を乗せて

 

ドナドナドナドナ

荷馬車が揺れる

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強者どもが夢の跡

 

きっと中には、

 

名も無き兵隊

「母さん。俺、銀行員になったら社会人デビューするんだ!ネットで見たんだ!銀行員になったらモテるって!だから安心してね!」

 

名も無き兵隊の母

「まあまあ。そんな事言って。それなら、ちゃんとしなくちゃね。はいこれ、5,000円。」

 

名も無き兵隊

「母さん。何これ?」

 

名も無き兵隊の母

「社会人になったら彼女作るんでしょ?それならちゃんとした所で髪を切らなくちゃね。もう1,000円カットは卒業して、美容室に言って来なさい。」

 

名も無き兵隊

「母さん…。そんなのもったいないよ。髪に5,000円もかけるなんて。うちだってお金無いでしょ。」

 

名も無き兵隊の母

「あんた、何言ってるの!?せっかく子供がM銀行に入るんだから、お金なんて気にしないで、私にも晴れの姿を見せておくれ。」

 

名も無き兵隊

「母さん…」うるうる

 

名も無き兵隊の母

「5,000円で足りるかね?表参道とか高そうだからね。」

 

名も無き兵隊

「きっと5,000円もあれば大丈夫だよ!それよりも母さん。銀行員になっていきなり彼女連れてきても驚かないでね!」

 

名も無き兵隊の母

「まあまあ。気が早いんだから。まずはしっかり髪を切って来なさい。」

 

名も無き兵隊

「うん!ありがとう!」

 

名も無き兵隊の母

「今日は大好きなオムレツにしようかね。」

 

名も無き兵隊

「やったー。お母さんありがとう!」

 

HAHAHAHAHA

 

 

みたいな兵隊も沢山いたんだろう。

 

そんな妄想に胸を痛めていたら。

 

講師

「次はお前だあああああ!!!」

 

ついに僕の番になった。

 

目の前には圧倒的な波動を放つS級妖怪。

絶対に負けられない戦いが始まる。

 

第3話 ヒグマ死す その2 に続く

 

higumaaa.hatenablog.com

 

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